FLEXISPOT電動昇降デスクのレビューと天板自作のための徹底ガイド
概要
この記事では、電動昇降デスクを入手した所感と天板の自作方法について記述します。
単なる宣伝のようになっても面白くないので、個別の商品に依存しない観点を多く取り入れたつもりです。具体的には以下の通りです:
- 電動昇降デスクのレビュー
- そもそもデスクが昇降することに伴って何が生じるか? という点を中心に、見落としがちな視点を提供できるようにしました。
- 天板自作方法
- 実際に届くまで分からない細かな情報(固定用ネジの寸法や遊びなど)やコツを記載しました。
- この記事を読めば、調達すべき部品の大きさ等がデスク到着前に分かります。
※ 脚フレームはFlexiSpot様から提供を受けています
電動昇降デスクの所感
構成
今回入手したのは以下の構成です。
- FlexiSpot E7脚フレーム
- 公式サイト: FlexiSpot | E7
- マルトクショップで発注した天板
- 120 × 60 × 2.5 (cm) タモ集成材
全体としての感想
1ヶ月ほど使用しましたが非常に満足しています。想像よりも静かに滑らかに昇降し、高さは概ね数mm単位で調整することができます。
立ち姿勢・座り姿勢(椅子)・座り姿勢(バランスボールなど)を適宜切り替えられることで、睡魔にも負けず集中力が維持でき、腰に違和感を感じることも無くなりました。
昇降デスクというと単に「立ち姿勢」「座り姿勢」を切り替えられるデスクと考えがちですが、従来通り座って作業する際でも適切な高さをミリ単位で調整できるため、良い姿勢を保つ効果が大きいです。昇降デスクを買って気づいたのですが、たった2cmの高さの違いでも体感的にはかなり違います。
以下、より細かい所感や注意点などを順番に述べてゆきます。
Good: 意外と便利なメモリ機能
今回入手したFlexiSpot E7
には、事前に記録した高さへワンタッチで移動するメモリ機能が付いています。
「立ち姿勢」「座り姿勢」のアイコンがついたボタンに加え、①②というボタンもあり、合計で4つの高さを記録することが可能です。
当初は4つも要らないだろうと考えていましたが、自分の場合は同じ座り姿勢でも
- 通常の椅子を使う場合
- バランスボールを使う場合
という2パターンがあるため、案外便利であることがわかりました。
それ以外にも様々な用途が考えられると思います。
- ノートやiPadに手書きする場合とタイピングをする場合とで高さを分ける
- 最適な高さはそれぞれ異なるらしい
- ビデオ会議向けの高さを設定
- ノートPCのWebカメラに向かって俯かないで済むように
- バランスボール上で正座して作業する際の高さを設定
- ステッパーを漕ぎながら使う用の高さを設定
メモリ機能は正直無くてもいいと考えていましたが、トイレに行く前などにボタンをタッチすれば勝手に高さが切り替わるというのは想像以上に便利です。立ち座りを切り替えたくなる頻度は意外と高かった(自分は数十分ごと)ので、積み重ねの手間は馬鹿になりません。
毎回雰囲気で調整するのと違って再現性もあるため、最適な高さを毎日模索するうえでも有益です。
Good: 障害物検知
FlexiSpot E7には障害物検知機能があり、昇降途中の衝突を検知して停止してくれます。
これも当初は不要だと考えていましたが、実際使ってみると衝突の危険はいくつかあります。
- モニター、PCスタンドが机からはみ出したまま昇降してしまう
- 立ち姿勢で椅子をデスク下に入れたまま天板を下げてしまう
- 掃除の際、隣の電子ピアノ↓が天板と干渉する位置にずれてしまう
- 壁や隣の家具(本棚など)との隙間に衣類等を巻き込んでしまう
- 座り姿勢で一時的に配線したケーブルを引き伸ばしてしまう
- うっかり昇降用のタッチパネルを触ってしまう
特に、目を離したままメモリ機能で昇降させる場合は障害物検知機能があると安心だと思いました。メモリ機能と障害物検知はセットで存在すべきです。
Good: 掃除・整理にも昇降が便利
本来の昇降デスクの用途とは異なりますが、天板を高い位置にすることで、デスク下の清掃や天板裏の配線といった作業が容易になります。
Good: 天板裏の形状
電動昇降デスクには天板裏にコネクタがありますが、コネクタ類は中心部に集まっているため、座り姿勢で脚を組んでも邪魔にならない設計となっています。天板裏のフレームは上から見るとH字形になっており、膝上の領域には天板しかない状態です(下図)。
例えばタイピングの際は手書きの時より天板を低めに設定するのが良いとされていますが、低めにすると膝上の空間が狭くなってしまいます。こんな状況でも上記のH字型のおかげで快適に作業することができます*1。
モニターアームとの組み合わせ
天板とモニターの最適な位置関係は、姿勢(立つ/座る/etc...)によって微妙に異なることがあります。昇降デスクとモニターアームを併用すれば、天板の高さとモニターの高さをそれぞれ調整でき、「椅子の高さを快適にした状態で天板はタイピングしやすい高さにしつつ、モニターは視線の正面に配置する」という状態が実現できます。
昇降切り替えごとにディスプレイの位置を調整する可能性があるため、モニターアームは滑らかなものが便利です。 Amazonで安売りされていた謎アームからエルゴトロンに買い換えたところ、有名なだけあって非常に滑らかでした。
注意: ルンバを使うならキャスターを用意したい
今回購入したFlexiSpot E7の場合、脚部の末端が傾斜して低くなっています。 小指をぶつけにくいという利点はありますが、ルンバを使っていると頻繁にこの傾斜に乗り上げてしまい、そのまま戻れなくなる場合もあります。
対策としてはキャスターが有効でした(FLEXISPOTには純正のキャスターが販売されており、そのまま装着できます)。キャスターの分だけ高く浮いた状態になり、ルンバが乗り上げることは皆無になります。
最初はルンバのためだけに用意したキャスターでしたが、間違いなく買ってよかったです。使ってみて気づいたことを列挙しておきます:
- キャスターで浮かせることで、床との隙間にホコリが溜まりにくくなる
- 日常的に動かすつもりはなくても、配線や清掃の際に動かせると便利
- 高さを心配していたが、元々ある高さ調整パーツと置き換えることになるので、それとの差(2-3cm程度)ぐらいしか高くならない
- PC作業程度ではキャスターは全く動かない(ロックもできる)
注意: 壁との隙間
FlexiSpotに限ったことではないのですが、天板を昇降させる以上、デスクを壁に密着させるような配置は難しいです。天板の大きさや部屋のレイアウトを考える際はこの点に注意が必要です。
※ 机の近くに窓枠がある場合は、カーテンやブラインドが使用できる程度の隙間が必要
また、机からはみ出し得る可動式のモニターやスタンド類を使用する場合、昇降時に周囲の家具と干渉しないよう注意する必要があります(障害物検知機能で一定程度は保護されるかもしれませんが)。
先述のエルゴトロンのモニターアーム(エルゴトロン MXV デスクモニターアーム スリムタイプ マットブラック 34インチ(3.2~9.1kg)まで対応 45-486-224)では、可動域上モニターが天板より奥に行かないようになっており、モニターが壁紙を擦ったり窓枠に引っかかったりすることを防げます。そういった安全策を考えておくのも良いかもしれません。
注意: 脚部の奥行き
天板は奥行き60cmから取り付け可能ですが、FlexiSpot E7の脚部の奥行きは68cmあります。天板サイズによっては脚の方がはみ出すことに注意して置き場を考えましょう。
注意: 組み立て
FlexiSpotの組み立ては天板を床に置いてひっくり返った状態で行います。組み立て後に上下反転させることになりますが、この際は膝立ちになって天板の長辺を回転軸にする(※)イメージで起こしてやれば、一人でもひっくり返すことも可能です。
※ この際、操作パネルのない方を下にしないと、パネルに荷重がかかって壊れる可能性があります。
かなり重いですが、片側ずつピボッティングするようにずらしていけば、一人で動かすことも容易です。
「高さ」の基準はどこ?
操作パネルには現在のデスクの高さがcm単位で表示されています。これはどの部分(天板の表?裏?)の高さなのでしょうか。
実際に計測してみたところ、2.5cmの天板を取り付けた状態だと、ほぼ天板上面(表)の高さに等しかったです。より厳密には、パネル表示が「70.0cm」の時、床面から天板上面の距離が70.3cmでした。従って、仮に天板の厚みが2.2cmであればパネルの表示は床から天板上面までの距離に一致することになります。
なお、脚部の床と接する部分にはガタ付き防止の調整部品が付いています。この調整具合によって数mm程度前後する可能性があります。また、上記の数値はキャスター等を使わない標準状態のものです。
高さの範囲
FlexiSpot E7の高さ範囲は58cm-123cmとなっています。E7は範囲が広いですが、他のモデルだと最低高さが72cmになっているものもあるので注意が必要です。
(参考): 無印のデスクは高さ70cm
昇降デスクを買ってみると分かるのですが、数cmの高さでも体感的にかなり違います。E7で一番下まで下げた58cmは、平均的な男性だと床に膝立ちで作業ができる程度に低く、子供でも使えそうです*2。
なお、一番下まで下げても大きめのデスクトップPCがデスク下に入ります。
天板の自作方法
ここからは、デスク本体とは別に天板を調達して取り付ける方法について説明します。脚だけ購入して好みの木材を使用できるのもFlexiSpotの良いところです。
材料の調達
マルトクショップでタモ集成材の120 × 60 × 2.5 (cm)を発注しました。 現在の自宅にはベランダがないので自力の塗装は諦め、自然塗料クリアーの塗装も込みで注文しています。
※ 厚さ2.5cmは2cmや3cmより安い(たわみやすさと大きさのトレードオフ?)
手前の面だけ「上R面(3R)」を指定し、他の面は全て「糸面 + 磨き」としました。それぞれの雰囲気がわかる角の写真を↓に貼っておきます。
塗装や断面の処理は非常にクオリティが高く、「木材」というよりは完全に「家具」という印象でした。 以前に持っていた無印のデスクよりも質感が良く、木目好きな人には大いにおすすめできます。集成材とはいえ、安いデスクにありがちな「薄い木目調の板を上下に貼っただけ」ではなく、断面の模様もしっかりしています。
鬼目ナットで天板を着脱可能にする
切断・塗装済みの木材を買ったので、あとは単純にFlexiSpotの脚に取り付けるだけです。
FlexiSpotには天板取り付け用の木ネジが付属しており、単に木ネジを天板にねじ込む形を想定していますが、自分は鬼目ナットを天板に埋め込み、六角穴付きボルトで天板を固定することにしました。鬼目ナットは、木材に埋め込むナットのようなものです。
このような構成を取ることで、引越し等の際に自由に天板を着脱することが可能になります。
ボルト・鬼目ナットの選定
では、ボルトと鬼目ナットはどれを選べば良いのでしょうか?
ざっくりいうと、それぞれの長さと太さを決めてやる必要があります。その際には以下のような制約があります。
- (1) 鬼目ナットの長さ:天板に埋め込む際に(下穴含め)貫通しない程度
- (2) ボルトの長さ:FlexiSpot脚部を貫通させたうえで、鬼目ナットの雌ネジ範囲に程よく収まる程度
- (3) ボルトの太さ:FlexiSpot脚部の穴に通すため、それより細くなければならない
- 加えて、多少穴がずれても通せるように一定の遊びが必要
- (4) 鬼目ナットの太さ: ネジの径(M4とかそういうの)は必ずボルトと一致させる
今回は天板が25mmなので(1)から鬼目ナットの長さを10mmとし、それと(2)からボルト長を15〜20mm(違いは後述)としました。ボルトの太さは(3)よりM4を選択し、(4)より鬼目ナットの内径もM4とします。
まとめると、以下の通りです。
- 鬼目ナット: M4, 10mm
- ムラコシ オニメE 【M4×10】 ≪5個1パック≫
- 脚固定に12個+操作パネル固定に2個
- 六角穴付きボルト:
- M4×20mmを4本(天板中心部)
- M4×15mmを10本(天板端部8つ、操作パネル2つ)
※ ボルトで挟み込んで固定するとき、貫通する穴はネジ径よりも大きい(噛み合わない)穴とします。機械設計の言葉で馬鹿穴と呼びます。今回はボルトをM4にしておけばOK。
FlexiSpotの説明書をダウンロードしても分からなかった情報なのですが、天板取り付け穴には下図のようなゴム部品(黒い部分)がはめ込まれています。これがあるため、ボルトの長さは天板に埋まる分+5mm程度は必要になります。太さはM4にしておくとゴムの内側にスムーズに入りました。
また、12箇所ある天板取り付け穴のうち、中心の4つは特に天板から浮いた状態になっています。この4つだけM4×20mm、他の8つはM4×15mmでちょうど良かったです。
操作パネルも天板に2箇所ネジ止めする仕様ですが、ここも下図のように5mm程度の厚みがあるため、M4×15mmのボルトと上述の鬼目ナットを使用しました。
なお、ボルトには頭の形によって六角穴付きボルト・六角ボルトなど様々な種類がありますが、六角穴付きボルトが無難でしょう。機械設計でも最もよく使われるタイプです。六角レンチを使うので「ネジ山が潰れた」となることもないですし、先端がボールポイント状になった六角レンチを使えば*3省スペースで(ドライバーを立てられないような隙間でも)開け閉めすることができます。
鬼目ナットの埋め込み
部品の選び方まで説明したので、実際に鬼目ナットを埋め込む際のポイントを記します。
手順は以下の通りです。
- 穴の位置決め
- 天板に下穴を開ける
- 天板に鬼目ナットを埋め込む
- ボルトの取り付け
位置決め
まずは穴の位置を決める必要があります。今回は天板を裏返した状態で上下左右対称になる*4よう脚フレームを置き、その穴に合わせて点の位置を指定していきます。
先述のようにFlexiSpotの天板取り付け穴には厚みのあるゴム部品がはめられているため、鉛筆で穴の位置を書き込んでいくのは難しいです。ドリルガイドキット(後述)に付属している位置決めピンを天板取り付け穴に差し込み(下図)、ハンマーで軽く叩いて目印をつけていくのが良いと思います。
下穴
目印をつけたら、いったんFlexiSpotの脚をどかして天板に下穴を開けていきます。下穴の径は鬼目ナット依存なので、鬼目ナットの説明書の指示に従いましょう(ググってもよい)。
天板用なら垂直度の厳密さはあまり必要ありませんが、↓のようなドリルガイドを使用すると垂直が出しやすいです。
穴を開ける際は先端の尖った木工用ドリルがおすすめです(尖ってると位置が定めやすい)。
開けたい穴の深さに応じてドリル軸にマスキングテープを巻いておくと、うっかり貫通させる失敗を防げます。不安ならストッパーを買うという手もあります。
鬼目ナットの埋め込み
鬼目ナットにはネジで埋め込むタイプとハンマーで打ち込むタイプがありますが、作業時の音量や失敗した時の取り出しやすさを考えるとねじ込み式がおすすめです。
普通に六角レンチでねじ込むだけですが、鬼目ナットは柔らかく、しっかり押し付けながらでないと割れてしまうことに注意しましょう。
なお、鬼目ナットにはつばが有るタイプと無いタイプがあります。つば有りの場合はつばが出っ張らないように注意が必要になってしまうため、今回はつば無しタイプを使いました。
ボルトの取り付け
鬼目ナットが埋め込めたら、再度FlexiSpotの脚を天板に乗せて六角穴付きボルトで固定します。
取り付け穴にはめられている黒いゴム部品の弾力もあるため、ボルトがM4なら多少の穴位置のズレは吸収できるはずです。どうしてもズレてしまってボルトが合わない穴があるなら、潔く諦めて良いと思います。天板を引き剥がすような力が加わることは無さそうなので…
完成
ボルトで天板と脚を固定できたら完成です!
天板裏の配線は可能な範囲でひっくり返す前にやっておいた方が楽かもしれません。ひっくり返してからだと、重力に抗いながらケーブルカバーを取り付けることになります。
(次回)配線を徹底的にすっきりさせる
デスクをすっきりさせるための知見は数多く集まっています↓が、昇降デスクには昇降に伴う難しさ(e.g. ケーブル長に遊びが必要)があります。
デスクをすっきりさせるマガジン|Go Ando / PREDUCTS / THE GUILD|note
調べた限り、電動昇降デスクで自分が納得できる水準まで配線を整理した例は存在しませんでした。いくつかのアイデアによって昇降デスクの配線を完全に目立たなくすることに成功したため、次回はその考え方と具体的手法について書こうと思っています。